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2月おすすめの本紹介─蜜蜂と遠雷─
『蜜蜂と遠雷』は、芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクールに参加するピアニストたちと、それに関わる人たちを描いた小説です。
作者は小説家の恩田陸。『蜜蜂と遠雷』で、直木賞と本屋大賞を受賞しています。ダブル受賞となったのは史上初なのだそうで、出版業界で大きな話題となりました。
恩田陸は執筆にあたって、3年に一度開催される浜松国際ピアノコンクールを3度も取材し、構想以来、約12年の歳月をかけて執筆されたそうです。クラシック音楽にも、ピアノコンクールにも詳しくない私が、芳ヶ江国際ピアノコンクールの展開や世界観に確かなリアリティを感じたのも、こうした恩田陸の作品への強い想いがあったからなのでしょう。
というわけで今回は、『蜜蜂と遠雷』を紹介していきます。
物語の舞台は、芳ヶ江国際ピアノコンクール。3年に一度開催されるこのコンクールは、若手ピアニストの登竜門として知られ、世界中から才能ある若者たちが集まり、演奏を競い合います。
物語の中心となるのは、風間 塵(かざま じん:16歳)、栄伝 亜夜(えいでん あや:20歳)、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(19歳)、高島 明石(たかしま あかし:28歳)の4人のピアニスト。本作では、彼らの歩んできた人生や心情を描きながら、クラシック音楽の素晴らしさ、ピアニストとして生きていくことの難しさ、それぞれの人間関係などを描いていきます。
『蜜蜂と遠雷』に登場する、4人のコンテスタントを紹介します。
風間 塵(かざま じん:16歳)
小説の最初に登場する人物であり、小説冒頭で描かれている、彼のこの世界に対しての感じ方、原風景がタイトルの『蜜蜂と遠雷』につながっています。
養蜂家の父とヨーロッパ各地を転々としているので、彼はピアノを持っていません。旅先で自由気ままにピアノを弾いていたところ、世界的なピアニストであるユウジ・フォン=ホフマンに見出され、師事するようになります。
ユウジ・フォン=ホフマンは、世界中から尊敬される老齢のピアニストでありながら、ほとんど弟子をとらなかったことでも有名です。そんな彼の推薦状を引っさげてコンクールに参加している塵に対して、ホフマンを尊敬する審査員たちは驚き、嫉妬し、怒りを抱きます。
塵の最大の魅力は、その純粋さです。正規の音楽教育を受けていない彼の演奏には、計算や打算が一切ありません。音楽だけでなく、自然や美に対して強い感受性を持っている彼の演奏は、自由で、野性的で、生命力に満ちています。天衣無縫な天才。彼は天からの「ギフト」なのか、それとも「災厄」なのか。そんな、音楽そのものの化身のような存在として描かれています。
栄伝 亜夜(えいでん あや:20歳)
栄伝亜夜は、かつて天才少女として音楽界の注目を集めていました。国内外のジュニアコンクールを制覇して、CDデビューを果たし、コンサートを何度も開催する神童でした。ところが、彼女が13歳のときに、ピアノの師であり、優秀なマネージャーでもあった母親を亡くしてしまい、ピアニストとしての活動を辞めてしまいます。
高校卒業後、亡き母の友人であり、名門音大の学長である浜崎に認められて、再び音楽の勉強をするようになります。ですが、芳ヶ江国際ピアノコンクールに参加することにしたのも、浜崎の強い勧めがあったからで、亜夜自身は乗り気ではありません。母を喜ばせたいと母のためにピアノを弾いていた彼女は、文字通り、ピアノを弾く理由を失ってしまったのです。
グランドピアノが墓標のように見えて、その中に音楽を見ることができない。母の死。「元天才」という重荷。亜夜はさまざまな呪縛を心に抱えながら、芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑戦することになります。
マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(19歳)
フランス人の父と日系ペルー人の母を持つ19歳。5歳から7歳まで日本に暮らしており、その頃、近所に住む女の子に誘われてピアノ教室に遊びに行ったことが、音楽との出会いでした。そこで才能を見出され、フランスへ帰国後、本格的にピアノを学び始めます。みるみる頭角を現した彼は、現在アメリカのジュリアード音楽院に在籍し、世界的ピアニストであるナサニエル・シルヴァーバーグに師事しています。
188センチの長身、甘いマスク、ピアノだけでなくスポーツにも秀でた才能。優勝候補として注目されるマサルは、いつも堂々としていて、屈折したところが一つもない好青年です。その佇まいには、正統派なスター性があります。
高島 明石(たかしま あかし:28歳)
コンクールの応募規定ぎりぎりの28歳。出場者の中では最高齢です。音楽大学を卒業後、ピアニストとして独立することなく楽器店の店員として働いています。すでに結婚しており、家庭を持っています。
明石はこれが音楽家としての最後の挑戦になるだろうという覚悟でコンクールに臨んでいます。彼が持つ信念は、音楽というものは決してプロだけのものではないということ。生活者の音楽というものも存在するはずだということです。日々の仕事をこなしながら睡眠不足や虚無感と闘い、努力を続けてきました。
元同級生からの依頼で、テレビのドキュメンタリー番組の取材対象となっており、明石の周囲では常にカメラが回っています。誠実で実直、周囲から愛される人柄。読者が最も心情に共感しやすい人物なのではないかと思います。
この作品が描くのは、単なるコンクールの勝敗ではありません。音楽と共に生きる人間たちの心情です。恩田陸は、彼らの心の動きを丁寧に描いていきます。不安、嫉妬、憧れ、挫折。音楽と共に生きることの苦しさと喜び。そして4人が互いに影響を与え合い、変化していく過程が、この小説を豊かなものにしています。
そして何より、この小説の素晴らしい点は、美しい文章表現そのものにあると思います。
読者は、この圧倒的な文章表現によって、馴染みのないクラシック音楽の世界を感じることができるのです。
『蜜蜂と遠雷』の中から、そんな文章表現をいくつか抜粋してみようと思います。
「なんだ、この音は。どうやって出しているんだ?
まるで、雨のしずくがおのれの重みに耐えかねて一粒一粒垂れているような──
中略
どうしてこんな天から音が降ってくるような印象を受けるんだ?
遠くからも近くからも、まるで勝手にピアノが鳴っているかのように、主旋律が次々と浮き上がってきて、本当に複数の奏者が弾いているのをステレオサウンドで聴いているように思えてくる。」
[恩田陸.『蜜蜂と遠雷(上)』.幻冬舎, 2019, ページ: 280-281]
「いつのまにか曲はベートーヴェンになっていた。
極彩色の色彩が、変化している。
今度は、速度を感じた。何かエネルギーが行き交っているような、音楽の速度と意思を感じ取ったのだ。
うまく表現できないが、ベートーヴェンの曲の持つ、独特のベクトルのようなものが少年の指先から矢のようにホールに放たれているようなのだ。」
[恩田陸.『蜜蜂と遠雷(上)』.幻冬舎, 2019, ページ: 40]
「明石の音は、違う。同じピアノなのに、さっきの人とは全然違う。
明快で、穏やかで、しっとりしている。活き活きとした表情がある。
やはり、音楽と言うのは人間性なのだ。この音は、あたしの知っている明石の人柄がそのまんま表れている。明石という人の包容力の大きさが、音に、響きに宿っている。舞台の上の明石の周りに、広い景色が見えてくる。」
[恩田陸.『蜜蜂と遠雷(上)』.幻冬舎, 2019, ページ: 205-210]
改めて抜粋してみると、シンプルな言葉と文章表現で、演奏シーンが見事に描かれています。また、このほかにも何度も演奏シーンが登場しますが、そのどれも手触りが違っていて、描き分けも見事です。恩田陸の小説家としての剛腕ぶりに、本当に感心してしまいます。
分厚い本ではありますが、ストレスなく、スラスラと読めてしまいます。それは、演奏描写や心理描写が、決して読者に「説明」しているわけでも、「押し付けている」わけでもないからなのでしょう。
単なる比喩なのではなく、登場人物たちが実際に見ているもの、聞いているもの、肌で感じているもの。その主観的な体験を丁寧に言葉にしているからこそ、読者も同じ体験を共有できるのだと思います。
そして、それは小説だからこそできる体験です。映画化もされている本作ですが、どんな音楽を聴いたとしても、“雨のしずくがおのれの重みに耐えかねて一粒一粒垂れているような”という言葉をドンピシャで連想することは不可能でしょう。
『蜜蜂と遠雷』は、音楽を言葉で表現することに真っ向から挑み、それを見事に成し遂げている小説です。並の文章表現では、クラシック音楽の演奏や世界観を、言葉だけで描ききることはできなかったでしょうし、登場人物たちの心情も、これほど劇的に感じることはできなかったと思います。
本作『蜜蜂と遠雷』は、音楽との、そして言葉との新しい出会いを味わえる一冊です。
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